「職住近接」という言葉があります。
職場と自宅が近くにあるという意味です。
メリットについては説明するまでもないと思いますし、
満員電車、長時間通勤が常態化した都市部では
積極的な取り組みがありました。
言葉が生まれた頃と比べると昨今のコロナ禍による
テレワークの普及により事情が変化していますが、
それでも単に通勤時間が短いことはメリットだと思います。
私も東京から栃木の大学病院まで片道2時間通勤を10年続けました。
慣れてしまえば車内で本を読んだり仕事をしたり、
当時はスマホはありませんでしたが、上手に時間を使うようにしました。
さてこの言葉の本質は「移動」だと考えます。
職は必要ですし、もちろん自宅も。
必要不可欠なものが空間的時間的に近くに存在すれば、
移動にかかる時間や身体的負担が減るわけです。
今注目されているのは
「医住近接」です。この言葉が一般的なのかわかりませんが、
意図は職住近接と同じです。
我々は歳をとることは不可避であり、
それに伴って医療機関との関わりもまた不可避です。
住居は言う迄もありません。
地域の高齢者を長く診療していると、
この問題がいかに重要か実感を持って理解出来ます。
例えば今の高齢者は毎日忙しいのです。
大半は病院通い、デイサービス、
そしてホームヘルパー来宅、訪問看護などです。
高齢者はいくら元気そうであっても
いつか必ず医療と介護が必要な時期が訪れます。
生きていくために仕事をしなければならないのと同様に
加齢を受け入れるために医療と第三者の介助や介護がなくてはなりません。
厚労省が主導する地域医療構想において
この「医住近接」も取り上げられ全国での実践例も紹介されています。
高齢者が医療機関の傍に住み、
訪問看護ステーションや介護老人保健施設が徒歩圏内にある。
そしてもうひとつ近接している必要があるのが「食」です。
具体的にはスーパーです。
徒歩圏内にあれば、かなり年老いても自分で買い物することが出来ます。
故に「医食住近接」がこれからのキーワードと言えるのです。
病院は長くても35から40年で建物としての寿命を迎えます。
どうしても建て替えや移転が必要です。
市内の病院もそういう”高齢建物”が増えています。
閉院するのでなければ、
単なる建て替えではいずれ経営上立ちゆかなくなります。
「医食住近接」をどうしても考えていく必要があると思います。
地方によっては医療法人がスーパーやコンビニまで誘致しているところもありますが、
あながち大仰過ぎるとは言えないでしょう。
函館は人口減少のみならず来年2025年をピークとして
ほぼ全ての急性疾患の患者数が減少しますし、2040年には介護人口さえ減少です。
お亡くなりになる方が増えるからです。
また北海道は冬の雪問題があります。
今回の能登半島地震をみても小さな集落まで復興の手が及びにくい状況です。
上記の「近接」という意味は「移住」と同値です。
高齢者が出来るだけ医療機関や介護施設の近くに移住することです。
医療を提供する医師、看護師、介護スタッフもどんどん高齢化しますから
訪問という移動自体が医療従事者側から困難になることは想定内です。
すなわち医療介護を受領する側とそれを提供する側が「近接」することが
いずれ不可避となるでしょう。
期せずして国土交通省が提案する「コンパクトシティ」に医療介護の面から変化せざるを得ません。
市内には3つの主幹病院がありますが、
そう遠くない将来に耐用年数に達します。
それぞれが単独で検討することはもちろんですが、
医食住近接の観点から情報共有しながら共存共栄を図れることを期待します。
院長 小西宏明
2024-02-19 21:01:00
クリニックブログ
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