AIの進歩は著しく、あらゆる分野への導入が進んでいます。
先週の日本医師会の委員会では埼玉県から医師会立の健診検査センターについて報告がありました。
そこでは約6割の施設では未だ検討が始まっていませんでしたが、
7割の施設ではAIの必要性を認識していました。
最も大きな理由は「人手不足」です。
センターの医師や臨床検査技師の不足が常態化しているのです。
医師については定年退職した先生のリクルート、
技師については家庭に戻っている特に女性技師の再就職に注目しています。
ことAIに関しては放射線や内視鏡画像、病理検査など適応分野が広がって
すでにコマーシャルベースに乗っています。
AIの診断には精度の問題がありますが、これは十分に改善が見込めます。
例えばAIではありませんが、心電図診断はすでに器械に実装されて臨床現場で定着しています。
胸部レントゲンやマンモグラフィーもほぼ臨床使用に耐えるレベルに達しました。
一部の内視鏡画像もそのようです。
どれも少なくとも医師の読影補助には活用出来ます。
委員会の後半はフリートークとなりました。
消化器内科で開業しておられる先生は、
跡継ぎになられた息子さんが強く希望されて内視鏡診断のAIを導入されたそうです。
導入の理由は「見落としを防ぐ」ことです。
病院であれば、判断に迷う場合に同僚や上級医に相談出来ますが、
個人のクリニックでは自分の知識と経験を超えることは困難です。
また別の先生は胸部レントゲン診断のAIを導入されていました。
これもやはり見落とし防止目的です。
私が大学病院にいた頃はこの類いの診断補助ツールは開発段階のものばかりで、
放射線科にはメーカーからの評価依頼や共同開発のオファーがありました。
あれから10数年、クリニックにも販売される”商品”にまで進化したのです。
さて我々函館市医師会健診検査センターではどうでしょうか。
少なくともCTなど高度な放射線検査は備えておらず、また内視鏡検査は行っていません。
現時点ではAI導入の費用対効果が見込めませんが、
いずれ医師の高齢化、成り手不足が生じれば、診断補助ツールとして検討に値すると思います。
私は大学病院では心臓血管外科医であるとともに
電子カルテを取り扱う医療情報部の責任者でもありました。
そこでは診療録にある検査データーや医師記録データを利活用する方法について研究していました。
「データーマイニング」と言います。
そこで目指していたのは、時間軸に沿ったデータ変化の抽出と見落とし防止です。
今現場で利活用されている診断AIは言わば”点”の評価(診断)ですが、
私が考えていたのは”線”の評価です。
端的に言えば右肩上がりなのか、下降線なのかです。
大学病院の外来はものすごく混雑して、医師は必死で患者をこなして行かざるを得ません。
CT結果の見落とし、病理検査のチェック忘れなどが取り沙汰されますが、
根本的な要因は医師が多忙だということです。
”点”の評価でさえ、抜け落ちることがあるわけですから、
ましてやその経時変化としての”線”の動きにまで頭が回るとは限りません。
それを補助するツールに着目していたのです。
具体的な開発につなげる前に退職してしまいましたが、
デジタルデータがどんどん蓄積されてきた中で、
短時間に数年分のデータ推移を評価出来れば病気の早期発見にも寄与します。
健診検査は”点”として診断するだけでなく、
市民、患者には継続的なチェックを促し、
”線”としての身体の変化を捉えることが高齢化社会においては益々重要になると思います。
そのためにはAIが不可欠です。
院長 小西宏明
2025-03-11 21:04:00
クリニックブログ
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