心臓血管外科の手術は一旦心臓を停止させて行うものがほとんどで、
他科の手術に比べて生死に直結することが多く、
その成績は”手術死亡率(術後1か月以内に死亡)”という数字で評価しています。
そして「○○病院とか△△大学心臓血管外科の手術成績」という形で
手術の種類毎に死亡率が公開されています。
私が研修医であった頃、
当時虎の門病院循環器センター外科は日本屈指の冠動脈バイパス手術の成績を上げており、
常に死亡率1%をキープしていました。
虎の門病院では大平正芳 前総理大臣の死去により
狭心症や心筋梗塞の治療成績向上のため、米国で活躍していた日本人医師を招聘して
循環器センター外科が開設されました。
その先生がおられた米国の病院では年間3000例の冠動脈バイパス術が施行されていました。
その後初代部長は某大学病院教授に異動され、
愛弟子であったナンバー2の先生がその技術を引き継がれた結果、
年間100例以上の手術をこなしながら死亡率1%以下を維持されました。
手術成績が芳しくない施設には何かしらの問題があり、
改良すべき点があるのが当然ですが、
術者の中には手術死亡が多い理由として
患者の重症度が高いとか、緊急度が高い重篤な術前状態であったことなどを挙げる場合がありました。
それに対して部長は次のようにコメントされていました。
「患者の状態はそれぞれ違うのが当たり前。死亡した理由はいくらでも弁明出来る。
しかし結果として1年間通じて成績がどうだったかが重要であり、それしか誰も評価していない。」
「重症者や難易度の高い手術ばかりやって死亡率1%としても
軽症者や手順のシンプルな手術で死亡率1%であっても
どちらも成績は同じ1%である。外部からは1という数字しか見られない。」
「プロというもの、専門家というもの、仕事というものはそういうことです。」
これは決して結果だけを重要視しているわけではありません。
それを達成、または維持する努力や改良を続けなさいということでした。
例えば野球なら
「ストライクゾーンに入った直球ならホームランを打てる選手がいたとします。
でも監督やオーナーからすると、そんな限られた球しかホームランが打てないバッターなんて
試合で使えないし、そもそも雇いません。」
手術は試合ではありませんが、
その前準備、本番での集中力などは共通するものがあると思います。
また人間関係も同じだと考えています。
自分が一緒に行動しやすい人もいれば、やりづらい人、
さらには出来れば避けたい人は必ずいるはずです。
しかしそこで考えるべきは利己の心と利他の心です。
2人の人間がいれば、全く同じ考えということはあり得ません。
もし一緒に何かを行おうとするなら、
少なくとも利他の心、「他を利する気持ち」を持っておく必要があります。
それが結果として
コミュニケーション能力が高いと評されるでしょうし、
自然と人が集まってくるような人間へと成長出来るのだと思います。
研修医時代に出会った上記の部長は
私の心臓血管外科医としての師匠でもあり、
多くの人生訓を与えて下さった恩師でもあります。
一緒に死亡率1%の一員でいられたことは
今でもいろいろな物事の自信に繋がっています。
院長 小西宏明
2025-07-09 22:02:09
クリニックブログ
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