救急車の利用については、全国的に課題となっています。
一部の地域では、救急搬送された患者さんのうち、緊急性が認められない場合に「選定療養費」を徴収する取り組みが始まっています。
例えば三重県松阪市では、2024年6月からこの仕組みを導入したところ、救急出動件数、救急搬送件数ともに約1割減少しました。茨城県でも同様の取り組みが行われ、軽症患者の搬送が減少するなど、一定の抑制効果が確認されています。
ただし、ここで難しいのは、
「本当に救急車を呼ぶべき人が遠慮して、そうではない人が簡単に救急車を利用している」
という、医療関係者がしばしば感じている問題です。
もちろん、一般の方が自分の症状を見て「これは救急車を呼ぶべき症状なのか」と判断するのは簡単ではありません。
だからこそ、私は救急車を呼ぶかどうか迷った時の相談先を、もっと積極的に利用してほしいと思っています。
日本には「#7119」という救急安心センターがあります。症状から緊急性を判断するための電話相談です。
また、かかりつけ医がいるのであれば、そこに電話して相談するのも非常に良い方法だと思います。
実際、数年前にかかりつけの患者さんから電話がありました。
症状を伺ったところ、急性心筋梗塞を否定することができませんでした。
そこで、
「当院を受診するのではなく、すぐに救急車を呼んでください」
とお伝えしました。
その後、搬送先ですぐにカテーテル治療が行われ、現在も元気に通院されています。
そして今日も、診察を受けたいという電話がありました。
症状を伺うと、やはり当院を受診するよりも救急車を呼ぶべき状況と判断しました。
すぐに自宅から救急車を呼んでいただき、結果的に脳梗塞の早期発見につながりました。
脳梗塞では、治療開始までの時間が非常に重要です。例えば血栓溶解療法は、適応となる患者さんでは発症から4.5時間以内が一つの重要な時間的目安になります。
つまり、
「救急車を適正に利用する」ことは、単に救急車を減らすことではありません。
本当に必要な人が、必要な時に救急車を利用できるようにすることです。
具合が悪くなった時には、まずかかりつけ医に相談する。
時間外であれば#7119を利用する。
そして、緊急性が疑われる場合には、ためらわず救急車を呼ぶ。
こうした受療行動が広がれば、緊急性の高い患者さんを早期に発見する機会が増える一方で、安易な救急車利用を減らすこともできます。
救急医療は、限られた医療資源によって支えられています。
医療資源を湯水のように使えば医療費は増大します。
その結果、診療報酬の抑制が続けば、医療機関の経営は厳しくなり、倒産や統廃合、閉院などにつながる可能性があります。
そうなれば、最終的に困るのは市民です。
医療資源を適切に利用することは、医療費を節約するというだけの話ではありません。
自分たちが必要な時に医療を受けられる環境を守ることでもあるのです。
来週9月9日は「救急の日」です。
今日は、まさに適切な救急要請が功を奏した一日でした。
今回の患者さんは、発症から早い段階で対応することができました。早期治療につながったことで、一命を取り留めただけでなく、重大な後遺症を残す可能性も低くなりました。
早期対応の重要性については、芸能人の方の脳梗塞の経験などを通して、一般の方にも少しずつ知られるようになってきたと思います。
これから北海道は、少しずつ気温が下がってきます。
夏の暑さが落ち着く一方で、これからはインフルエンザなどの感染症が増え、さらに脳卒中や心筋梗塞も増えてくる季節になります。
特に65歳以上の方には、できれば**「かかりつけ医を持つ」**ことをお勧めしたいと思います。
そして、
「これくらい大丈夫だろう」
と過信しないこと。
少しでも体調がおかしいと感じたら、まず相談すること。
かかりつけ医が時間外なら#7119を利用すること。
そして、明らかに緊急性が疑われる場合には、遠慮せず救急車を呼ぶこと。
救急車を呼ぶことをためらってはいけない人もいます。
一方で、救急車を呼ぶべきか迷ったまま、何となく救急車を利用する必要もありません。
「適切な救急要請」と「適切な受療行動」。
これが巡り巡って、必要な人が必要な時に医療を受けられる、安心できる医療環境を守ることにつながるのだと思います。
院長 小西宏明
2026-09-02 21:41:00
クリニックブログ
| コメント(0)