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聖徳太子にはなれない

聖徳太子にはなれない

先日、トンネル内でトラックが衝突して炎上する事故がありました。運転中にスマホで動画を見ていて、前を見ていなかったそうです。

息子が小さかった頃、私はテレビを見せながら食事介助をすることはありませんでした。母から「食べさせる時は、食べることに集中させなさい」と教えられていたからです。テレビをつければ、じっと椅子に座らせることはできるでしょう。しかし、親が口に入れるものをただ飲み込むだけで、何を食べ、どんな味がしたのか分からないかもしれません。

研修医の頃、手術を終えて病棟に戻ると、看護師が一斉に集まってきました。患者さんの指示を確認したり、困り事を相談したりするためです。勤務交代時間が迫っていると、次々と質問の「連打」を浴びます。

そのため手術が長引き、夕方や夜に病棟へ戻ると、準夜勤や夜勤で看護師の人数が少なく、実はホッとすることもありました。

外来はさらに大変です。目の前の患者さんを診療している最中に、看護師、事務スタッフ、さらには病棟からも電話がかかってきます。まさに三重苦。「聖徳太子がうらやましい」と思ったものです。

看護師の間では、複数の作業を同時に行うとミスにつながるため、「作業中」「話しかけないでください」と表示する腕章やサインボードを導入している病院もあります。しかし、医師にはこうした仕組みがありません。手術を終えた外科医が病棟に戻ってきて、時にイライラするのも無理はないと思います。

今日、3か月以上続く下肢皮膚潰瘍に痛みが出てきた初診患者さんが来られました。軟膏と鎮痛薬は処方されていましたが、原因は「むくみ」と説明され、それ以上の検索はされていませんでした。

痛みには鎮痛、発熱には解熱、吐き気には制吐薬。そして同時に、その原因を探る。これは診断学の基本です。しかし患者数が多すぎれば、一人にかけられる時間も限られ、深く考える余裕さえ失われます。皮膚科医の少ない函館では、これも大きな問題です。三重苦に患者数の多さが加われば、四重苦です。

今年知り合いの先生が病院長に就任されました。従来の仕事に加えて経営や対外的な仕事まで増えたせいでしょうか、心なしかお痩せになられた感じがします。昔から「忙しい先生のところに、さらに仕事が集まる」と言われます。

しかし、聖徳太子にはなれません。

すべてをこなそうとするのではなく、「何をやらないか」を決める。それも大人の対応なのだと思います。

院長 小西宏明

2026-09-28 21:34:00

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